京極夏彦 - 嗤う伊右衛門

形容の仕様が無い程面白い。文章は芸術作品のように美しく、構成は織物のように緻密だ。内容は一寸先も見えぬ程濃く、どんな闇よりも深い。
角川はこの作品を映画にする際に「Eternal Love」と副題を付けたが、本当にこの本を読んだのか疑いたくなる。読んでつけたのであれば、如何仕様も無いぐらいに馬鹿で無能だ。本書を読めば愛も憎悪も、正義も悪も、正気も狂気も、美しいということも醜いということも・・・、全ては表裏一体であり見る方向が違うだけだと思わずにはいられないはずだ。また、もし僕が本書にテーマを見出すとすればそれは「愛」などではなく、間違いなく「エゴ」である。もしかしたら、「愛」を期待して見た人は、余りのギャップに読むのを止めた人もいるかもしれない。それほどまでに陰惨で救いの無い物語だ。
角川はもっと考えて売り出せ。ちなみにカバーも中公文庫のデザインの方が明らかに良い。