不愉快な出来事

交差点で信号待ちしている僕と同じオーラを発する男性に、後から幼児が運転するふらついた自転車がぶつかった。幼児はその拍子に、転んで泣き出した。男性は振り返って少し困った顔をしたが、また前を向いて、信号変わるのを待った。すると、その幼児の母親らしき女性が、男に歩み寄って言った。
「何泣かせてんのよ」
酷い言いがかりだ。彼もそう思ったらしく、どもりながら自分はぶつかられただけだと説明した。すると、女は「相手は子供なのよ!」と怒鳴った。母の怒鳴り声が怖いのか、計算なのか分からないが、幼児の泣き声が激しくなった。女の顔は赤に、信号は青に変わった。
男性が下を向いたまま黙っているのをいいことに、女性はさらに捲くし立てた。
「だいたい子供ッ、いい年して子供相手に大人気ない!」
「アンタみたいな悪い事をしてもッ、アンタが悪い事したんだから、こっちは子供なんだから謝罪しなさいよ!」
一通り言いたいことを言い終えたのか、女は黙って男を睨んだ。彼は小さな声で「スミマセンデシタ」と言って、点滅する信号を早足で渡っていった。