○○売りの少女〜ダメ。ゼッタイ。〜

空から白い雪が舞い降り、あたり一面はその白い雪に覆われている。空も綺麗な白に包まれていると思い見上げると、闇の中に白い粒が見える程度だった。
何故だろう・・・・・・。
空にはこぼれるほどいっぱいの雪があるはずなのに・・・・・・。
視線を地面に戻し、辺りを見回す。普段は何の飾り気も無い町が白いグラデーションに覆われ、綺麗なイルミネーションが光る。着飾った人々が楽しそうに笑いながら私の前を通り過ぎてゆく。
そんな辺りを幻想的に飾る雪も、今の私にはただ冷たく感覚を奪ってゆく邪魔者でしかない。ポケットを探ると、大量の注射器があった。これを全部売らなければ新しいクスリがもらえない。それなのに、注射器はまだ一本も売れてなかった。
「ねぇ、痩せるクスリがあるんだけど・・・・・・」
前を行く赤いコートの女性に声をかけると、彼女は一瞬私を蔑むような目で見て、何も無かったかのように歩いていった。私は追いかけようとして転び、強かに地面に打ちつけられた。
足元を見ると、靴が無く真っ赤になった素足が見えた。どうやら転んだ拍子に靴を無くしてしまったらしい。いや・・・、気がついてなかっただけで、もうずいぶん前に無くしてしまったのかもしれない。そもそも、履いてきたかどうかも忘れてしまった。
・・・どうでもいいか。
既に、痛みなど感じない足で立ち上がり、再び歩き始める。
「これしながらやると、すごい気持ちいいんだよ」
私は目の前のカップルにそう言って、注射器を取り出した。二人は私に眼もくれず、そのまま素通りしようとした。
「本当に・・・、一回でいいからやってみなよ」
女の手を掴み言うと、男の方が私の手を払いのけ蹴り飛ばした。
「うせろ!キモイんだよ」
仰向けに倒れこんだ私に、男の捨て科白が聞こえた。
私は腰を上げ建物に寄りかかった。何か無いかとポケットを弄り、手に触れたものを取り出した。
小さな手鏡だった。
私は久しく鏡を覗いてないことを思い出し、手鏡を覗き込んだ。鏡の中には、眼窩は窪み、髪はぼさぼさの疲れ果てた顔の女が映っていた。
これが私か・・・・・・。
どうして・・・・・・。
涙があふれ、止まらなかった。
手が震える。それでもクスリが欲しかった。
私は震える手で、もう自分には薄すぎて効果の無い注射を打った。
やはり、効果は無い。
それでも私はやめることが出来無かった。
私はとうとう最後の一本も打ち終わり、ただ何となく空を見上げた。
いつの間にか雪は止み、空は漆黒の闇に包まれていた。
ほんの一粒の希望も見えやしない・・・・・・。
しだいに視界がぼやけ、意識が遠のいた。
私は彼と海に居た。彼は水着にも着替えずに、海に飛び込み私に水をかける。私はびしょ濡れになり、笑いながら彼に抱きついた。私と彼は手を繋ぎ、海に大の字に広がった。二人はそのまま波に揺れ、海に消えた。