ゲームクリエイターさんの話 その3

時間はついに残すところ30分。えらい人は採用について話し始めた。まず、採用するに当たって、殆どの人が自分で作った作品を持っていくのが普通だそうだ。但し、落ちゲーとシューティングは評価されないと考えてくださいとの話し。理由は以下の三点。一つ、流行でないし、その会社では作ってない。二つ、個性が出し辛い(もって来る人の殆どが個性が無いらしい)。三つ、これが一番大きな理由らしいが、そこら辺にあふれてるソースのコピペやツールの使用により、誰でも簡単に出来るため評価の仕様が無いとのこと。この辺で単にゲームクリエイターとか言う言葉に憧れてきた人の鼻は、ボキボキにへし折れている。H君の鼻は、伸びることは止まった様だが、まだへし折れているようには見えなかった。中々頑丈なヤツだ。
そしてえらい人は、スクリーンにとあるゲームの画面を映した。1対1の3Dアクションゲームみたいなヤツだった。キャラのポリゴンは荒く、背景もお世辞にも良く出来てるとは言い難い。しかし、それは一人で作った作品だそうだ。会場からは感嘆の声が漏れた。えらい人はその送られてきたゲームについて話し始めた。まず、ポリゴンや背景の出来は如何でもいいらしい。彼はプログラマーになりたいのであって、キャラやグラフィックデザイナーではないのだから。そして、そのゲームはオーソドックスではあるが連続攻撃があったり、壁を走れるという独自のアイディアもあった。それでも、この作品では合格のランクではないとの言葉。この言葉で、会場は静まり返った。一人でここまで出来るのにダメなのか。皆そんな感じだった。
えらい人が言うには、二つの改善点があるらしい。まず、連続攻撃は評価できるが、二撃、三撃と進むにしたがって攻撃が外れやすくなっているという点。ここは、敵の方を向く補正をつけるか、コントローラーで方向修正できるようなプログラムにするべきだという事が一つ。もう一つは壁を走れるというオリジナリティも良い点ではあるが、説明書を読まずとも壁を走りたくなるような、カメラワークにするべきだという点が二つ目らしい。どうやらこの辺が僕がよくわからないと言った、"ゲーム的なプログラム"というヤツなのかもしれない。
さらに、ゲームプラン考えましたといって、いきなり数百枚の紙を持ってくるのは論外。いきなりそんなもん持ってこられても読む気が起きないとのこと。つーか、そんなやついるんだ。ゲームプランナーは全てわかってないといけないのだから、まずは自分の得意なところを希望するといいらしい。
この時点で、さすがのH君の鼻もボキボキにへし折れており、周りの人の鼻はやすりで研いだように平らになっていた。しかし、えらい人が言った最後の一言が良くない、一番大事なのはゲームが大好きで、意欲がある人だそうだ。すげぇ嘘くせぇ・・・。今まで、しっかり技術の話ししといて一番大事がそれかよ。僕はそう思ったが。周りの馬鹿の鼻がニョキニョキ伸び始めるのがわかった。
そして、最後の質疑応答の時間。鼻がニョキニョキの馬鹿が手をあげて言った。
「先ほど、一番大事なのはゲームが大好きで意欲がある人と仰いましたが、技術が無くてもゲームが大好きで意欲があれば大丈夫ということですか」
そんなわけないじゃん。今までの何聞いてたんだ。この馬鹿死なねぇかな。僕がそう思っていると、えらい人が答えた。
「そうです。今まで二名ほどタイピングも何もろくに出来ない人を雇いました」
ニョキニョキニョキニョキ・・・。嗚呼、もうとまんねぇよぉ。余計な事言うから。
そして、えらい人は続けた。一人はゲームが大好きで、RPGやシュミレーション等の馬鹿みたいに時間がかかるゲームを月に最低10本。隠しや裏なども全て残さず完全にクリアするということを10年間続けてきた人。名作も糞ゲーも微塵の要素も残さずにクリアでき、人生の全てを投げうってまで、ゲームだけに全てを賭けれるほどゲームが好きな人が一人。もう一人は、自分の誰にも負けない妄想力をゲームに叩きつけたいという人が一人。前者は、自社のソフトについて質問したところ、開発者しか知らないようなことや、開発者でも知らないヤツがいるような事まで答えたため採用。後者は、えらい人が好きな漫画の最終話までの5話分を、一週間後までに妄想して提出してくださいといったところ、原作者に会って聞き出したんじゃねぇのってぐらいに、良く出来た作品を持ってきたので採用。
質問者と周りの人のニョキってた鼻はベコベコに凹んでいた。其処までゲームが好きで、そこまで意欲があるって意味ね。僕は非常にスッキリし納得した。完膚なきまでに打ちのめされた皆は、これ以上質問することなくこの説明会は終わった。
会場を出ると、憔悴しきったゾンビみたいな表情の人が次々と溢れてくるのが見えた。僕は隣のH君に「ほら、やっぱゲーム業界とか無理だろ」といいながら、彼の顔を見ると、「この会社は厳しいね」
ニョキニョキニョキニョキ・・・。


こいつも死なねぇかなぁ。